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かそうこくふうけい

火葬国風景

海野 十三

「帝都日日新聞」1935(昭和10)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,334 字 · 37 页

青空文庫

そして火のつこうとしているこの棺桶の板をうち破りたい……。

「ううーッ……うぬッ」

八十助は血と汗とにまみれながら、獣のように咆哮し、そして藻掻いた。

そのときだった。実にそのときだった。

なんだか一つの異変が、横合から流れこんで来た。それは有り得べからざる奇蹟の様に思われた。一陣の涼風が、どこからともなくスーッと流れこんで来たのだった。

「……?」

八十助は藻掻くのを、ちょっと止めた。

(どうしたのだろう?)

何事か起ったらしい。

焼けつきそうだった皮膚の表が急に涼しくなった。

そして、焦げつきそうな痛みがすこしずつ取れてゆくように思った。

(罐の火が消えたかナ!)

と思ったが、しかし罐の火はいよいよ明るく燃えさかっているらしいことが、棺の蓋の隙間から望見された。罐は盛んに燃えている。それだのに、棺の中にいるわが身は急に楽になったのだ。

ポツーン。

そのとき何か冷いものが、胸のあたりに落ちてきた。

「おや。――」

と彼は叫んだ。その声のすむかすまないうちに、つづいてポツリポツリと冷いものが上から降って来た。

「ああ、水だ。――水が洩れてくる」

彼の元気は瞬間のうちに回復した。