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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
「おれは交代寄合の元締までだったが」と渡貫が云った、「佐藤はわが藩はじまって以来の若さで城代、庄野は江戸家老、鵜沢は側用人とね」
「そして梶本は」と庄野が云った、「おれの思いだしたことに誤りがなければ、土佐派の絵師として天下にその名を知られている筈だ」
又左衛門はそっと庄野を見た。さっきは梶本源次郎としか覚えていなかったのに、枯泉という雅号から思い当ったのだな、と考えたようであった。
「いまは謙遜はよそう」と梶本が云った、「おれは慥かに土佐派では知られている、おれの描いた屏風は紀伊家をはじめ、加賀、越前、土佐の諸家におさまっているし、京の寺々には襖絵がずいぶんある、いまは奈良の法林寺から金堂の壁絵を頼まれて、その下絵にかかっているところだ」
「つまり」と梶本は続けた、「おれだけに限っても、若い血をたぎらせて望んだものが、ほぼそのまま自分のものになった、それにもかかわらず、実感としてはなにもつかんだような気がしない、若いころ待ち望んだ輝かしいもの、栄誉や名声のもつ胸のときめくような感動は、若いころよりもはるかに遠く、手の届かない