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カラスキーしのゆうじょう

犂氏の友情

久生 十蘭

「オール讀物」1939(昭和14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页

青空文庫

身装も、それに準じて、スマートとはゆかないまでも、一応、さっぱりした見かけをしている。スフ入りはスフ入りだが、膝も丸くなっていないし、衣嚢もたるんでいない。なにか一期の晴着といった改まった感じで、その後このことを思い合して、この印象が決して間違いでなかったことを、むしろ薄気味悪くさえ思った。

おそらく、ゴイゴロフに手を差しのべさせたまま、やや長い間、薄ぼんやりと相手の顔を眺めていたのに相違ない。ゴイゴロフは、もう一度、同じことを繰り返した。

「わたしはカラスキー・ゴイゴロフですが、あなたは、どなたでしょう。どういうご用事ですか」

こちらは肺病やみの盗っとと掛合うつもりで来たのだったが、こんなふうに開き直られたのですっかり面喰ってしまった。へどもどしながら、山川石亭先生が急病で、不本意ながらあなたとのお約束を果すことができなくなったという意味のことをはなはだ曖昧に吐露した。

これを言い終った末、いったい、どんな波瀾が捲き起されるか。これこそは、相当、凄味のある瞬間だった。

ところで、カラスキー氏は、大して驚いたようなようすもしない。それどころか、叙景的にいえば、雨雲の間からぼんやり秋の薄陽が洩れて来るようなしんねりとした微笑が、色の褪めたような顔のうえに射しかけてきた。