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ぎせいしゃ

犠牲者

平林 初之輔

「新青年」博文館、1926(大正15)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,364 字 · 37 页

青空文庫

顔は母に似て丸ぽちゃに相違ない。女学校はどこへ入れようかな。成長くなったら音楽家にしようか、それとも画家がよいか知らん。画は日本画と西洋画とどちらがよいか知らんて。琴や生花を仕込んで純粋な日本娘風にしつけるのもわるくはないな……空想の泉は、空から湧いて来る雪と無限を競うて、それからそれへとはてしがない。

三、奇禍

読者諸君、私は、ここで、厳正な第三者として一言述べておきたいことがある。今村のような環境に生き、今村のような人生観をもっている人生の行路者は果して幸福であろうか? 私は即座に否と答えるに躊躇しないのである。何となれば、彼の頭の中にえがかれている人生と現実の人生との間にはあまりにも残酷な溝渠が穿たれている。少くも今日の世の中では今村のような人間の存在そのものが甚だ不自然である。人間社会に行われている自然淘汰は、彼のような病的な存在を長く許しておく筈がないのである。今の社会に生きてゆくためには、もう少し悪ずれのしていることが絶対に必要である。今村のような人間は、人間社会を支配している機械の歯車の中へ不用意に飛びこんだ蝿のようなもので、それが圧しつぶされてしまうのは自然でもあり、必然でもあるので、それを今更ら悲しんだり同情したりするのはもう遅過ぎるのである。