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ろうしつき
狼疾記
「南島譚」1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页
年齢は五十を越した・痩せてはいないが丈の低い・しかし容貌は怪奇を極めた人物である。鼻が赤く、苺のように点々と毛穴が見え、その鼻が顔の他の部分と何の連絡もなく突兀と顔の真中につき出しており、どんぐりまなこが深く陥ち込んだ上を、誠に太く黒い眉が余りにも眼とくっ附き過ぎて、匍っている。厚く、黒人式にむくれ返った唇の周囲をチョビ髭が囲んでいて、おまけに、染めた頭髪は(禿は何処にもないのだが)所によってその生え方に濃淡があり、一株ずつ他処から移植したような工合であって、またそれが短いくせに、お釈迦様のそれのようにひどくねじれ縮れているのだ。
職員室の誰もがこのM氏を馬鹿にしているようだった。この人の名前を口にのせるたびにニヤリと笑わない者はない。なるほど、性行なども愚鈍らしく、言葉でも「そうした、もので、しょうなあ、」などと一語一語ゆっくりと自分の今の発音を自分の耳で確かめてから次の発音をするように続けて行く。もう二十年もこの学校に勤めているらしいが、その勤続年数よりもその間に幾人かの細君に死なれたり、逃げられたりしたという事の方が有名である。それに、もう一つ、職員と生徒との区別なく、若い女と見れば誰でもすぐに手を握る癖のあることもみんなに知られている。