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ねこはち
猫八
岩野 泡鳴
「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页
三
「………」猫八は予期に反して、がッくり調子抜けがした。そして初めて思い及んだのであるが、これは自分のお客ではない。自分は芸人として人を泣かせたり笑わせたりしても、自分の泣いたり笑ったりする余地を持たない。ところが、この人々はまた自分らよりも一段うわ手で、人を泣かせたり笑わせたりする芸人その物の自分では泣いたり笑ったりできないその心持ちまでも研究しているらしい。さすがはその方の専門家たちだろう。これじゃア自分は潔く兜を脱ごうという正直な謙遜心を起して、「そうしてその俳優はそれからどういたしました」と尋ねてみた。おもに子供との関係を知りたかったのである。それでも、たぶん、役不足を言って舞台に出なかったとか、子供だけは芝居へ見に来させなかったとかいうのが落ちだろうとたかをくくっていた。
三
「そうれ見たまえ。みごとに白状に及んだじゃないかね、しかし虎を見たいんならわざわざ動物園まで行くにも及ぶまいぜ。――一二升飲ませれゃ誰だってなりますが?――どうだい、そッちの虎を見に行こうじゃないか?――そいつアいけません。何しろこいつを撒くわけには行きませんからね、と彼はまた子供をかえりみた。