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ねこはち
猫八
岩野 泡鳴
「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页
七
別にこれは商売にしているものではないけれども、畑のことに話が向くと、どんな相手にだッても自分は時々われを忘れるほどにおもしろく、元気が出るのであった。これは自分としての趣味だ、楽しみだと、かねてから思ってる。で、
「お茄子でも胡瓜でも、これからやがて取れるようになりますから、御入用の節はいつでもさしあげます」など言いながら、とかく不平そうになる自分の厭な顔を自分でまぎらしていた。そして前には少々さし控えられた手を餅菓子へ三度も続けてだした。
七
廃兵院で鶴の啼く声が澄みわたってよく聞える午前の一時近くになって、皆が席を立った。自分もわざと潔く立って、皆といっしょに二階を下りたが、ふところへねじこんだ古雑誌と菓子や煎餅の残物とが今夜のお礼代りかと思えば、ばかばかしいような気もして、ここでひそかに例の虎と抱き合ってしばらく何だか泣いてみたかった。けっして金の貰えないのをくよくよ思ってるわけでないのは、自分が江戸ッ子たる点に照り合わせても分ってるが、――そしてこれも江戸ッ子たる女房が、女の弱い気に負けて、時々よい越しの金を残そうとするのを、自分が投ぐりつけてまで使わせてしまうところを見てもらっても、分ってるが、――百姓の労働生活に比べてみると、自分は人にくだらない芸などを見せてそれで生活をしなければならぬ身が、今さら