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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

というところもあるのだが」と、主人はなお本を見い見い語って行った。そして皆が猫八などのいるのを忘れて虎の方へ心を傾けたが、猫八にはその虎が自分のようであった。「ばかさ加減を言えば由井の役だッて同じようなものさ。むしろ君の虎一役が名誉かもしれんぜ、人気が虎の一身に集まったりして、ね。――そう思ってわたくしも一生懸命やるだけはやるつもりなんですが、ね。――そうとも、僕たちだッてむしろ君の虎に期待しているよ。――恐れ入ります、と深井は苦笑をしながらも、内心少からず慰められた」

「いけません、な」と、猫八は顔を顰めてみせながら、「そんなところで例のシチュエイションをやっては!」

「うふ、ふ」と、乙な笑いが聞えた。

「先生がたの前で、わたくし風情が、生意気な英語の使い方をしたのは間違ってるか存じませんが――」この英語はいわゆる妥協ということに当るのではないかと思いなおしたのだが、「とにかく、その深井とかいう俳優がその場合にせっかく持った真人間らしい考えを、劇評家の煽てでなくさせてしまい、うかうかとまた調子づいて行っちゃア困ります、な」

「ところが、そうであるからかえっておもしろくもあるのだが――」