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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

「まア、おとなしくしていなよ」ひそかに自分で自分を制しながら、相手の顔を見ていた。この人は高見といって、一二度ある催しに自分を招いてくれた人で、人のよさそうな黙笑をその少し酔いの出た、そして睡そうなあの顔に続けている。「おい、小奈良の小大仏」と喉まで出たが、朋輩の者でもない人にと思って、ぐッと呑みこんでしまった。それから、さし障りのないと思えた言葉がべらべらと飛びだした。「もう、一杯すみました、な――この不景気に先生はなかなか景気がよさそうじゃアございませんか? 少しあやかりてい、な、――えい? わたくしなぞはこれから自宅へ帰って、やッと――その、な――熱いのにありつけるかと思ってますのでげすが、な、かかアがその用意をしてあるかどうかも分りません」

「は、は、はア!」筋向うに座を占めてこちらを見詰めていた男がまた笑った。

人の笑いさえ聞えれば、自分には気持ちよく響くのであるが、自分自身には少しもおもしろくないのが不思議であった。芸人としての理窟を言えば、それはたくさんあることはある。人を笑わせるには自分から笑っていては利き目がないということもその一つだ。