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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

のでげすから、な」

「そういう方の気分も多少は出ていないことはないが」と、主人は答えてくれた、「そこをばかり主とした作ではないから、これはこれでいいのでしょう」

「猫八君は自分の芸をあまりばかにしてはいませんか?」近眼がこう自分に質問した。

「むろん」ちょッと行き詰ったが、そう考えなおすまでもなかった。「そうよりしようがございませんから、な。いやしくも人間でありながら、虎の啼き声までして飯を喰わにゃアならないのでげすから」

「けれども」と、一方の言葉は続いた、「この作の主人公は君とは反対に、早く芸人になれるようにと子供をつねに劇場へ伴ってきているのでしょう」

「そんなおやじが世間には多いので困ります」猫八は少からず不平であった。芸人だッて人間だのに、この席の人間には自分に対する同情がないとみえた。こんなところにぐずぐずしていたッて、一文の御礼さえ貰えないんだろうからという気になって、心で、陶淵明の「帰んなん、いざ――いざ、帰んなん」を唱えた。この方が自分を潔くしたのだ。そして明けッ放してある二階のそとに夜がだんだんふけて行くにしたがって、子供の事とともに自分の畑の苗の事がまた一番心配になってきた。