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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

、もう一つは今日の文学に求められているもの、或は求められている文学について「人生の共感」、両方で三十四五枚かき終りました。それからすっかり家の大掃除いたしました。手拭かぶって。風呂の火をもしつけておいて、掃除して、御飯炊いて、そして丁度わいたお湯でザァザァといい心持に体洗って、折から雨の降って来た庭の眺めも満足して御飯たべたというわけです。そうして坐っていると、たのしい、くつろいだ空気の中に、おのずから浮んでくるのは優しい花模様の提灯の灯かげです。それは何と近々とあるでしょう。その中にとけこんで、自分もさながらその灯かげとなるような恍惚と戦慄とがあることでしょう。しばらく、しばらく坐っておりました。〔中略〕

まあ、もうあのボーは五時? 何とこの手紙に時間がかかったのでしょう。でも、それはそうね。あたりまえでもあります。きょうは私たち一仕事すませた日なのですものね。

唐突なようですが、私がまるでアルコール分に弱いというのは不便のようで、つまらないようで、でも、私のためになっているでしょう。もし平気だったら、私はきっときょうなど円い水晶の小さい盃で琥珀色をして重くとろりとしていたキュラソーをのむでしょう。