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たまとりものがたり
玉取物語
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页
杉田玄白、前野良沢の「解体新書」が翻刻されてから七十年、その後、「内科撰要」や「医範提綱」というような良知が出て、いよいよ繁栄の趣になったが、蘭方外科は名目ばかりで、膏薬と塗薬のほか何事も得出来ず、華岡流の外科も脱疽、兎脣の手術を行なう底のところに止っている。腫瘍のふぐり玉を切取る技は、ぱれいの術書に見えているが、鎖肛、鎖陰を開切するのと事がちがい、男の大事な個所へ切尖を入れる難儀な術でござるゆえ、手引草だけでは事が運ばなんだも道理であった。
その日、参集した蘭方医家の主なる者は、長崎仕立のほうでは、伊東玄朴をはじめとして、竹内玄洞、本間玄調、入沢貞意、戸塚静海、石井宗謙、江戸仕立のほうでは箕作阮甫、高須松寧、大槻俊斎、坪井信良、川本幸民などで、いずれも蘭法で一家をなした大家名手ばかりであったが、如何せん経験のないことで、これぞという成案もなかった。いろいろと議論が出たが、そのうちに、某が「獺の内臓は人間とよく似ていると申し、過ぐる頃、山脇東洋などは度々解剖の資料にいたしたよしでござった。肝臓、腎臓が似ているなら、ふぐりの構造も同様であろうと思われる。