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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

「いかにも」と、今度は弦四郎が云った。

「誘拐して参った女達でござる」

「何故そのようなよくないことをなされる?」

茅野雄は怒りを加えたらしい。病気上りの、痩せて蒼い頬の辺りへ紅潮を注させ、少し窪んだ鋭い眼に――いつもは学究らしい穏かさと、叡知とを湛えているのであったが――憎悪の光を漲らせて、弦四郎の眼を追いながら睨んだ。

そう茅野雄にたしなめられて、かつは鋭く睨められたが、根が浮世を目八分に見ている、身分不詳の弦四郎には、堪えるところが少なかったらしい。

例によってトホンとした不得要領の、一種の笑いを笑ったが、

「そう宮川氏云われるものではござらぬ。な、只今も拙者は申した。ちとどうも悪ふざけが過ぎましたようで。女子誘拐しの一件も、その悪ふざけの一つでござる」

しかしこのように云って来て、急に弦四郎は咎めるように云った。

「たしか貴殿におかれては、丹生川平という別天地へ、おいでなされるはずでありましたな」

(おや)とそれを聞くと茅野雄は思った。

(どうしてそんなことを知っているのであろう?)

「さよう」としかし茅野雄は云った。

「拙者、丹生川平へ参る。が、どうしてご存知かな?」