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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

飲み水だってないだろう。

しかしながら外へは出られなかった。出たが最後に二人ながら、兇暴になっている郷民達のために、私刑にされるに相違ないのであるから。

「そう、とうてい今のところ、外へ出ては行かれますまい。そう、それではともかくも、奥へ進んで参ることにしましょう」

こう云うと茅野雄は奥へ向かって歩いた。

と、浪江が囁くように云った。

「行く先に幾個か関門があります。そこには番人が守っております。……妾、先へ立って参りましょう。妾が声をかけましたら、番人達は扉をひらきましょう。と云うのは、妾と父上とばかりが、関門をひらかせる特別の権利を、持っているからでございます」

恐ろしき予感

そこで浪江は先へ立って進んだ。

はたして関門が行く手にあった。

「ね、妾だよ。門をおあけ」

浪江は何気なさそうに声をかけた。

と、内側から男の声がした。

「ああお嬢様でございますか。……が、今頃何のご用で?」

「妾はおあけと云っているのだよ。……何の用であろうとなかろうと、お前には関係のないことだよ。……門をおあけ! ね、おあけ」

内側では考えているようであったが、やがて閂を外すらしい、軋り音が鈍く聞こえてきて、やがて関門の扉があいた。