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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

……ところで運命は、なんぼするな?」

「それではお買いくださいますので。ありがたいしあわせに存じます。はいはい、あなた様の運命の値段は、あなた様次第でございます。一両の運命もございますれば、十両の運命もございます」

「なるほど」と茅野雄は苦笑したが、

「つまりは易料や観相料と、さして変わりはないようだの」

「はいはいさようでございます」と女の声も笑っている。

「それではなるだけ安いのにしよう。一分ぐらいの運命を買いたい」

「かしこまりましてございます」

こう云うと女は眼をつむって、空を仰ぐような格好をしたが、

「山岳へおいでなさりませ。何か得られるでござりましょう。都へお帰りなさいませ。何か得られるでござりましょう。それが幸福か不幸かは、申し上げることは出来ません」

――で、女は行ってしまった。

(浮世は全く世智辛くなった。何でもない普通の占いをするのに、運命をお買いなさいませなどと、さも物々しく呼び止めて、度胆を抜いて金を巻き上げる。男でもあろうことか若い女だ。昼でもあろうことか更けた夜だ)

茅野雄は、苦笑を笑いつづけながら、下谷の方へ歩き出した。そっちに屋敷があるからである。