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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

少し慇懃にこのように訊ねた。

「よろしかったらご姓名なども、承りたいものでござりますな」

すると老武士は顎を撫でるようにしたが、

「そう云われる貴殿の素性と姓名とが、愚老には聞きたく思われますよ」

「拙者は醍醐弦四郎と申して、浪人者でござります」

「愚老は雲州の隠居だよ」

「…………」

醍醐弦四郎は仰天して、改めてつくづくと老武士を見たが、

「それでは松平碩寿翁様で。……が、それにしてはこのような醜悪極まる勘解由店の、刑部屋敷などへおいでなさるとは、心得ぬ儀にござりますな」

――で、碩寿翁の返辞を待った。

それにしても勘解由店の刑部屋敷とは、どういう性質の屋敷なのであろうか?

勘解由と刑部?

「根津仏町に祈祷者住む、カアバ勘解由と云う。祈祷して曰く、『最も慈悲深き神よ、全智全能の神よ、死後まで祈祷すべし、尚神に願うべきことあり、正直に導けよ、邪道に導くなかれ』また曰く『告白せよ、神は唯一なり、信ぜよ、神は産れず、産ず、神と比較すべきもの何らあることなし』と。――吉利支丹には非ず。有司放任す。信者数多あり、いずれも謙遜」云々。

古い文献に記してある。

で、その信者達が住んでいたので、勘解由店と云ったのである。