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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
たった半年、社会は、急激に変ってしまった。何もかも、御新政気分だった。
田崎格太郎夫婦の名で、生き残りの戦友たちに、廻章がまわってきた。
当時の憶い出を語りながら、一夕会したいというのである。場所は、根岸の笹の雪としてある。
『田崎も、無事だったか』
岸田吟香は、別れて後、初めてこの消息を手にしたのだった。
早速、その日に、出向いてみると、六人ほどの生き残りの同志が集っていた。
『やあ、生きていたか』
『貴様も』
と、いった調子で、
『田崎はどうした』
『愛妻を連れて来ている』
『ふウむ、お房さんか』
『そうだ、嬰児は、かあいそうに、死んだそうだが、お房さんは相変らず美しい』
『彼奴、見せびらかしに来ておる。一つ、呼んで取ッちめてやれ』
騒いでいるうちに、夫婦は、静にそれへ来て、一別以来のあいさつをした。お房は、秋の七草の裾模様を着ていた。格太郎は、うす色の羽織小袖、袴をきちんとつけていたが、夫婦とも、どこか、淋しい影をもっていた。笑っても、ほかの者のような、心からのそれではなかった。
主人側が、静なせいか、何となく、酒もしんみりとして、別れたのである。それから間もなく、岸田吟香は、彼の宿望だった仏蘭西へ洋行するために、横浜から船客になったが、船の徒然に、ふと、書物をひらくと、その中から封を切らない、手紙が出てきた。