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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
中にも、二番目の益太郎は、その頃の岩井半四郎の、すばらしい人気を聞いて、楽屋入を待ちうけ、わざといかめしく往来に立ち塞がって、
『河原者、待とう。かりにも、松井益太郎のゆくてに現われて、唐瓜の化物を、風呂敷で包んだような、その面ていは、何事だ、解けっ、風呂敷を』
と、呶鳴りつけた。
半四郎は、びっくりした。楽屋入り頭巾をあわてて取って、大地に、額をつけた儘、ふるえ上った。男衆が飛んでいって、楽屋へ、急を告げる。顔役をたのんで来る。弥次馬や、町の女たちは、
『大和屋だ、大和屋だ』
と、木戸銭がないので、すぐ、人垣をつくって、わいわい押している。
『おおかた、近ごろ流行りの、宿無し浪士の嫌がらせだろう。舞台にさしつかえるから、まあ鼻紙銭でも包んで行け』
と、芝居者が、駈けつけて来てみると、益太郎は、腰の海老鞘を閂に反り打たせて、
『貴様は、そもそも、男か女か』
と、半四郎に、奇問を発している。ふるえ声でいった半四郎の答えもよかった。
『はい、実は、男でございます』
『男だと。呆れた馬鹿野郎め。男のくせに、紅白粉をつけ女小袖で、大道をあるくとは、妖怪にもまさる奴だ。