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いきょう
異郷
寺田 寅彦
「明星 第二巻第六号」1922(大正11)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,712 字 · 8 页
子供の時分に夢に見ていた古風な風景画の景色が到るところ眼前に拡がっていた。堀河にもやっている色々の船も、渋くはなやかに汚れた帆も、船頭のだぶだぶした服も、みんなロイスデエルやホベマ時代のヴェルニイがかっていた。
測候所で案内してくれた助手のB君は剽軽で元気のいい男であった。「この晴雨計の使い方を知っているかね、一つ測って見給え」などと云った。別れ際に「ぜひ紹介したい人があるから今晩宅へ来てくれ」と云って独りで勝手に約束をきめてしまった。
約束の時刻に尋ねて行った。入口で古風な呼鈴の紐を引くと、ひとりで戸があいた。狭い階段をいくつも上っていちばん高い所にB君の質素な家庭があった。二間だけの住居らしい。食堂兼応接間のようなところへ案内された。細君は食卓に大きな笊をのせて青い莢隠元をむしっていた。
お茶を一杯よばれてから一緒に出かけて行った。とある町の小さな薬屋の店へ這入った。店には頭の禿げた肥った主人が居て、B君と二言三言話すと、私の方を見て、何か云ったがそれはオランダ語で私には分らなかった。
店のすぐ次の間に案内された。そこは細長い部屋で、やはり食堂兼応接間のようなものであったが、B君のうちのが侘しいほど無装飾であったのと反対に、ここは何かしらゴタゴタとうるさいほど飾り立ててあった。