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きけいのてんにょ
畸形の天女
江戸川 乱歩
「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页
だまっていると、
「きょうは、まさか、あの子に逢うんじゃないだろうね。おじさん、たのむから、おれのじゃましないでくれ」
脅迫ではない。やっぱり頼んでいるのだ。まったく自信のない口ぶりだ。これなら、こっちで嫉妬することはない。
「きみは、よっぽど、あの子に惚れているね」
青年はだまって、松永の顔を見ていたが、ニヤリと笑ったように思われた。
「惚れていちゃ悪いかい。あいつはおれのもんだ。だれにも手出しはさせねえ。おじさん、おれは命がけなんだぜ。あんな子は、この世にふたりといねえや。な、そうだろう。おじさん、たのむ、遊び半分に、あの子をおもちゃになんかしないでくれ。おれにとっちゃ宝もんだ。おれ、ほんとうに、あの子のためなら……」
声の調子が妙にかわって、とぎれたかと思うと、キクッ、キクッという変な音がした。なんだかギョッとするような音だった。しばらくして、やっと青年が泣いていることがわかった。
松永は気味のわるい夢を見ているような気がした。彼のいわゆる「夢の世界」と、ほんものの夢とが、ごっちゃになっているような気がした。
ふたりは、長いあいだ、暗闇の中で、向かい合ったまま、立ちつくしていた。