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ぎわく

疑惑

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年9月15日、25日、10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,308 字 · 37 页

青空文庫

「真夜中だね。で、嫌疑者というのは」

「親父をにくんでいたものは沢山ある。だが、殺す程もにくんでいたかどうか。強いて疑えば、今あげられている内に一人、これではないかと思うのがある。ある小料理屋で、親父になぐられて、大怪我をした男なんだがね、療治代を出せとか、何とかいって度々やって来たのを、親父はその都度怒鳴りつけて追い返したばかりか、最後には、母親なんかの留めるのを聞かないで、巡査を呼んで引渡しさえしたんだよ。こっちは零落はしていても、町での古顔だし、先方はみすぼらしい、労働者みたいな男だから、そうなると、もう喧嘩にならないんだ。……おれは、どうもそいつでないかと思うのだ」

「しかし、おかしいね。夜中に、大勢家族のある所へ、忍び込むなんて、可なりむつかしい仕事だからね。ただ、なぐられた位の事でそれ程の危険を冒してまで、相手を殺す気持になるものかしら。それに、殺そうと思えば、家の外でいくらも機会があり相なものじゃないか、……一体、曲者が外から忍び込んだという、確な証拠でもあったのかい」

「表の戸締りが開いていたのだ。かんぬきがかかっていなかったのだ、そして、そこから、庭へ通ずる枝折戸には錠前がないのだ」