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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

おかみさんは汁を造るべく里芋を洗う。そして皮つきのまま鍋の中に投げ込む。塩引鱒が焼かれたが、私はそんなものに用はない、宿の人たちとともに、焚火の傍で夕食をすました。

亭主は突然口を切って、「平林から先年東京へ出た人があるが、東京も広いそうだから御存知あるまい」という。「有名な人か」と聞いたら、「村で失敗して、夜逃げのようにして往ったのだ」という。人口二百万という数は、この人たちには見当がつくまい。東京を鰍沢の少し大きい位いに思っているのかもしれぬ。

おかみさんは、「俺れは何の願いもない、たった一度でいいに、東京を見て死にたい」という。お喋りの「ボコ」はすぐ口を出す。「俺ら東京へゆくぞよ、東京へ往って、年イ拾うてデカくなるンぞ、俺ら年イ拾うてデカくなると、カッカはバンバになるぞ」という。

話はそれからそれへと移る。平林の村は殆ど日蓮宗であること、自分たちは冬になると平林へ帰ること、池の傍だけに寒さの強いということ、この池から氷が採れる、厚く張る時は二尺を超える、一尺の氷の下に置いた新聞も読めるほど透明であるということ、これから先は、毎日この家に日はあたらぬ、雪もかなり深いということ、先年東京から祭文語りが来て、佐倉宗吾の話をした時、降り積む雪は二尺あまりというたので、気早の若者は、馬鹿を吐け、山の中じゃあ