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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
袂で口を押えて笑うので、又四郎は憮然として、食物を噛むのをやめた。
「なにか怒ることがあっても貴方はそのときはがまんなさるのですってね、ずいぶんがまんして、そうして相手が忘れたころになって、がまんが切れて、それからお怒りにいらっしゃるのですってね、わたくしちゃんと聞いてますわ」
「――いや、そうではないのです、そのときはべつに、怒りにゆくわけではないのです」
「あらあ、わたくし聞きましたわよ」
「誤伝です、そうではないのですよ」
「では、ではそのとき」みつ枝は大いに興味を唆られるらしい、「――そのとき怒らないでなにをしにいらっしゃいますの」
「――そこは、それは、簡単には云えません、しかし……茶を下さい」
又四郎は辛うじて躰を躱すのであった。だがみつ枝は一般よりも好奇心の強い性分らしく、こちらが躰を躱そうと、かえりみて他を云おうと、めげずたゆまずつきまとい、絶えず新鮮な愛らしい表情で話しかけ、質問を繰り返した。
「ほほ、ごめんあそあせ、貴方には百足ちがいという綽名があるそうですけれど、それはどういう故事から出たのでございますか」
「――うう、私は、それは……」