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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

のが、いつものおこえのようではなくて、とうとくきこえましたことでござります。御しゅえんがはじまりましたのは宵の酉のこくごろでござりましたろうか。とのさまがたは申すまでもなく、櫓々へも樽をおくばりなされまして、おさかなには出来るかぎりのぜいをつくせとお料理方へお仰せつけられ、けっこうな珍味のかず/\をそえられましたので、あちらでもこちらでもおもい/\のさかもりになりましたが、わけてもじょうちゅうのひろまにおいては、上段の間のしきがわのうえにとのさまが御座なされまして、おくがたがそれにおならびあそばされ、そのつぎにひめぎみたち、一段ひくいおざしきに文荷さいどの、若狭守どの、弥右衛門尉どのなどおれき/\のしゅうがおひかえなされ、まずとのさまよりおくがたへおさかずきでござりました。奥向きのものもみな/\まいれとの有りがたいおことばがござりましたので、こしもと衆やわたくしどもまでも御しょうばんにあずかりましておそばちかくにかしこまっておりましたが、どなたも/\こよいが最後でござりますから、とのさまをはじめお侍衆はいろとり/″\の鎧ひたゝれ、太刀、物具に派手をきそっていぎをたゞされ、お女中がたもきょうをかぎりにわれおとらじと晴れの衣裳をおつけになりまして、中にもおく