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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
よしにて、織田家にとってはめでたいものでござりましたけれども、「にんげん五じふねん、げてんのうちをくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり、一度生を得て滅せぬものゝあるべきか」と、ろう/\たるおこえでいまとのさまがおうたいなさるのをきゝますと、そゞろに先君御在世のころのおんことがしのばれ、さだめなき世のうつりかわりになみだがもよおされまして、なみいる勇士のかた/″\もよろいのそでをしぼられたことでござりました。
それより文荷斎どの、一露斎どのが一番ずつおうたいなされ、また若太夫どのゝまいなどがござりましたが、そのほかにもなか/\おたしなみのふかいおかたがいらっしゃいまして、おさかずきのかずのかさなるにつれ、みな/\この世のまいおさめうたいおさめにたっしゃな芸を御披露におよばれ、遊興のかぎりをつくされますので、御酒宴の席は夜がふけるほどにぎやかに相成、いつ果てることかわかりませなんだ。そのうちに一人、「梨花一枝雨を帯びたるよそほひの、雨を帯びたるよそほひの」と、一座のかた/″\がおもわず鳴りをしずめますような美音をはりあげてうたわれました