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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
ぜんたいめしいと申すものは、ひといちばいかんのよいものでござります。ましてわたくしは、ひごとよごと奥がたのあんまを仰せつかりまして、おからだの様子がおおよそ分っておりますので、おむねのなかのことまでがしぜんと手先へつたわってまいりますせいか、だまって揉んでおりますうちに、やるせないおもいがいっぱいにこみあげてまいるのでござります。当時おくがたは二十をふたつみつおこえなされ、四人にあまるお子たちの母御でいらっしゃいましたけれども、根がおうつくしいおかたのうえに、ついぞいまゝでは苦労という苦労もなされず、あらいかぜにもおあたりなされたことがないのでござりますから、もったいないことながら、そのにくづきのふっくらとしてやわらかなことゝ申したら、りんずのおめしものをへだてゝ揉んでおりましても、手ざわりのぐあいがほかのお女中とはまるきりちがっておりました。もっともこんどは五たびめのお産でござりましたから、さすがにいくらか窶れていらっしゃいましたものゝ、おやせになればおやせになるで、その骨ぐみの世にたぐいもなくきゃしゃでいらっしゃることはおどろくばかりでござりました。