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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

のは、それよりずっとのち、七八ねんもさきのことでござりまして、当時は姫ぎみもおちいそうござりましたから、そんなおはなしはござりませなんだ。なれども此のお児は、おはつどのよりもお茶々どのに人知れずのぞみをかけておいでなされ、それとなくお顔をぬすみ見にいらしったのではござりますまいか。もちろんどなたもそう気がついたかたはござりませなんだが、子供のくせに大人のようにおちついていらしって、むっつりとおだまりなされ、いつまでゞも御前にかしこまっておいでなされたのは、何かいわくがおありになったのかとおもわれます。そうでなければ、かくべつおもしろいこともないのにしば/\御殿へおこしなされて、窮屈なおもいをあそばしながらじっとすわっていらっしゃる訳もござりますまい。わたくしだけはなんとなく無気味なようにかんじまして、うす/\嗅ぎつけておりましたので、「あのお児はお茶々さまに眼をつけているらしい」と、こしもとしゅうに耳うちをしたことがござりましたけれども、めくらのひがみだと申されましてみなさまがおわらいなされ、まじめにきいて下すったかたはござりませなんだ。