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つぶてしんじゅう

礫心中

野村 胡堂

「富士」1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页

青空文庫

樹上の鋏樹下の太刀

「ハッ」

堺藤兵衛はその儘引下るより外にはありません。

事志と違い、怨嗟の府となった水野越前守も、自分の屋敷内から、主殺しの大罪人を出すに忍びなかったのでしょう。

腰元のお豊は、畳に額を埋めて、何時までも何時までも差控えて居ります。

間もなく膳部は係りの者の手で、ソッと調べられました。当時の事でよくは判りませんが、猛毒○石らしい白い粉が、飯の間に交って居たのを、かすかに見たとも言われて居ります。お毒見役武田幾之助は、毒薬の量が少なかった為か、それとも根が丈夫だったせいか、さしたる事もなく平癒しました。

樹上の鋏樹下の太刀

その事を一段落に、越前守の健康は一日一日と恢復しました。

「秋日和の庭は一入の風情だろう、豊、伴をせい」

「ハッ」

「他の者は遠慮をするがよい」

水野越前は、お豊に太刀を持たせて、泉水を遶り、築山を越え、屋敷から遠い、巨木の木立の中へ入って行きました。

燦々と木の間を降る秋の陽、振り袖に持ち添えた太刀から、お豊の円い首筋に落ちて、得も言われぬ艶めかしさです。

「好い日和じゃのう、紺碧の空が透き通って、まだ紅葉には早いが、――小鳥が楽しそうに鳴いて居る」