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つぶてしんじゅう

礫心中

野村 胡堂

「富士」1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页

青空文庫

橋の袂に美女の裸身

橋の袂に美女の裸身

しはんほになすはかはすなにほんはし

「吝嗇漢に茄子は買は(わ)すな日本橋――か、ハッハッハッハ、こいつは面白い、逆さに読んでも同じだ、落首もこれ位になると点に入るよ」

「穿ってるぜ、畜生め、まったく御改革の今日びじゃ、五十五貫の初鰹どころか、一口一分の初茄子せえ、江戸ッ子の口にゃ入えらねえ、何んのことはねえ、八百八町、吝嗇漢のお揃いとけつからア、オロシヤの珍毛唐が風の便りに聞いて笑って居るとよ、ヘッヘッヘッヘッ」

場所もあろうに、公方様は膝元の江戸日本橋、

「一、忠孝を励むべき事……」

と天下の掟を掲げた高札の真ん中に何者の仕業ぞ、貼付けた一枚の鼻紙、墨黒々と書かれたのは、この皮肉な落首でした。

さしも大江戸の繁華も、昨年(天保十二年)以来、老中水野越前守の改革に火の消えたような有様ですが、さすがは物見高い江戸っ子、茶気と弥次気分は、此期に及んで衰えた風もなく、落首を貼った高札の前は、押すな押すなの騒ぎ、その十七文字を、上から読んだり、下から読んだり、ドッ、ドッと笑い崩れ乍ら、胸一杯に痞えた溜飲を下げて居るのでした。

「そら鬼だ」

「甲斐守様出役だ」