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ねぎさまみやた
禰宜様宮田
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,662 字 · 68 页
その前へ一段低く連なった山の峯のうちへと消えている。
そして、静かな西風に連れて、来ては去る雲がその時々に山全体の色調にこの上なく複雑な変化を与える。
或るときは明るく、或るときは暗く、山はまるで生きているように見えた。
大きな楓の樹蔭にあぐらをかき、釣糸を垂れながら禰宜様宮田はさっきから、これ等の美しい景色に我を忘れて見とれていたのである。
「まったくはあ、偉えもんだ……」
彼は思わずもつぶやく。
そして、自分の囲りにある物という物すべてから、いきいきとして、真当なあらたかな気が立ち上って来るように感じたのである。
一本の樹でもどんな小さな草でもが皆創られた通りに生きている。
背の低いものは低いように、高いものはまた高いもののようにお互にしっくりと工合よく、仲よさそうに生きているのを見ると、何によらず彼は、
「はあ、真当なことだ」
と思う。
そしてどことなく心がのびのびと楽しくなって、彼のいつも遠慮深そうに瞬いている、大きい子供らしい眼の底には、小さい水銀の玉のような微かな輝やきが湧くのである。
いったい彼の顔は、大変人の注意をひく。
利口そうだというのでもなければ雄々しいというのではもとよりない。