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ねぎさまみやた
禰宜様宮田
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,662 字 · 68 页
六
そして、もうそれっきり動く様子は見えなかった。
六
恐ろしい冬が過ぎた。
ほどよい雨と照りが地の底から生気を盛返させて、どこからどこまで美しく蘇返った。
お玉杓子が湧き、ちゃくとり――油虫の成虫――がわやわや云いながら舞いさわぐ下の耕地にはペンペン草や鷺苔や、薄紫のしおらしい彼岸花が咲き満ちて、雪解で水嵩の増した川という川は、今までの陰気に引きかえまるで嬉しさで夢中になっているようにみえて来る。
コーコー、コーコー笑いさざめきながら水共が、或るときは岸に溢れ出し、或るときは途方もないところまで馳けこんで大賑やかな河原には小石の隙間から一面に青草が萌え、無邪気な雲雀の雛の囀りが、かご茨や河柳の叢から快く響いて来る。
桑の芽は膨らみ麦は延びて、耕地は追々活気づいて来たけれども、もう耕す畑も海老屋の所有にされてしまったお石は、毎日古着や駄菓子を背負っては、近所の部落へ行商に出かけた。
禰宜様宮田は、あんな不意なことで死んでしまうし、家の畑は、とうとう鬼婆にとり上げられるし、もううんざり仕切っている彼女は、ただ独り遺っている息子の六を可愛がる気もなくなっていた。