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しゅうさいようしかがみ

秀才養子鑑

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页

青空文庫

「それは分っている」

「あなたは御心配なすったけれど、会社の前で人事課長さんに会ったのは却って好かったんですわ。課長さんが私のことを仰有ったんでもお分りになりましょう?」

「あれは冗談だよ。もう奥さんに苦労をさせちゃいかんって」

「冗談にしてもですわ。課長さんの頭の中に私というものがあったから仰有ったんでしょう? して見れば私がついて行って上げたことが確かに足しになっていますわ」

「それは多少そうかも知れない」

「家で威張っても外へ出ると、あなたはカラキシ気が弱いんですからね。予科で苦い経験を嘗めていますから、本科卒業の時、御自分で成績発表を見に行けなくて、私が行って上げたじゃありませんか?」

「そんなこと今更何うでも宜いよ」

「宜くありませんわ。それですから、私、ついて行って上げたのよ、子供の入学試験のように」

「兎に角、今度は僕も本気だ」

「無論私も気をつけますわ」

と雪子さんは結局応じてくれた。主張は主張として、冷静の時は結構な御内助だ。器量も好い。小室君はひどい目に合わされても辛抱が出来る所以だ。雪子さんは小室君より二つ年下だ。女学校時代は兄として愛し、昨今は良人として愛しているが、愛するの余りに妬く。