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しゅうさいようしかがみ

秀才養子鑑

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页

青空文庫

小室君は半年間無欠勤を続けた。申分なかったが、年の暮に養父が又倒れた。三度目の脳溢血だった。人事不省三日にして亡くなった。その為め一週間休んだが、忌引が入っているから、欠勤は三日に過ぎない。前の会社で失策っているから、休むということがひどく気になった。

「お父さんの部屋のところを通ると、今でも未だいらっしゃるように思うんですけれど」

と小室君は始終頭を押えられていた丈けに、一種の淋しさを感じた。

「私、もうあなた一人よ」

と雪子夫人も悄げ返っていた。こうなると幾ら我儘でもいじらしい。母はもう疾うにない。これで両親を送ってしまって、子供がないから荷が軽い。その上に財産が残っている。小室君が又職を失っても、生活の安定は欠かない次第だ。

正月が来たけれど、喪中だった。三ガ日をヒッソリ暮して、四日の御用始めに出勤した小室君は俄に腹痛を催して、輾転反側した。医者に来て貰ったら、盲腸炎らしいとのことで、直ぐに病院へ担ぎ込まれた。

「あゝ、痛い。あゝゝ苦しい」

と喘ぎながらも、

「しかし手術は家内に相談してからにして下さい」

と本格的養子の立場を忘れなかった。雪子さんが駈けつけて励ました。