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しゅうさいようしかがみ

秀才養子鑑

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页

青空文庫

試験とか手術とかと先の分らないことは嫌いな性分だけれど、今更仕方がない。小室君は手術を受けて、病院生活を続けた。幸いにして経過良好だった。同僚がよく見舞いに来てくれた。御用始めの日に会社で発病したから周知の事実になっていた。

「小室君、何うだね?」

と或日人事課長が現れた。

「お蔭さまでもう間もなく傷が癒着します。後二三日、晩くても四五日で退院出来る積りです」

「盲腸炎だという話だが、本当かね?」

「はあ、切ったんです」

「すると君は二つあったのか?」

「…………」

「左にある人があるということは聞いたが、二つある人があるのかな? 矢っ張り」

「何とも申訳ございません」

「いや、病気は仕方がない。ゆっくり養生し給え」

「恐れ入りました」

と小室君は困り果てゝ、頭を掻くばかりだった。

雪子夫人が始終附き添っていて、見舞客に挨拶をした。若い同僚は大抵来たから、小室夫婦は会社内へ知れ渡った。悪いことでない限り、人間は自己の印象を強くして置く方が勝ちらしい。それでこそ個人も商店も広告に高い金を払う。

「小室って男、ナカ/\面白い奴だな。喪中の正月で退屈の余り、栄螺の壺焼を五つ食って盲腸炎を起したんだって」