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しゅうさいようしかがみ
秀才養子鑑
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页
「私がこゝで待っていること仰有いましたの?」
「そんなことは言うものか」
「仰有る方が有効だったかも知れませんわ。それぐらい熱心に運動していることが分れば、本気になって考えて下さるでしょう」
「いや、矢っ張り当り前の方が安心だよ」
「すると私、当り前じゃありませんの?」
「そういう意味じゃない」
「変な人ね、あなたは」
と雪子夫人はもうプリ/\した。これだから、小室君もやり悪い。
すべて主人たるものはその性格の何処かに神秘の要素を残して置かなければいけない。
「宅の主人は不思議な人ですよ」
と妻女が吹聴するようなら、そこの家は主人の統制が利く。酒を飲んでダラシのない人だけれど、奇妙なことに商売用と聞くとシャキッとなるとか、些っとも俸給の昇らない人だけれど、何ういうものか、友達に畏敬されているとかと思い込ませて置く必要がある。一から十まで性格を読まれてしまうと、見括られる。この点小室君は出発を誤っている。将来雪子さんの婿養子になる為め、商大の予科時代から小室家へ引き取られて、性格を曝露し過ぎたのである。女というものは種が分るともういけない。例えば夜半に台所の方でコト/\音がする。