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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

それまでは、あるいは義貞もまだ“詰の大事”に迷うところもあったであろう。が、詰手は幾つもあるものではない。徐々の緩か、電撃の急かである。彼がこうして速戦即決の打込みへ踏み切ったのは、浜手にも三木俊連の新たな味方があることを知ったからにちがいない。

ここ数日で、その持チ駒も、二万余騎とふえていたが、大半以上は利を見て傾いて来たものである。新田の一引両、足利若御料の旗、それの景気が招いた烏合の武族だ。

――が、瀕死の府といえ、北条方はそうでない。窮鼠の強さに加え、鎌倉最期の日とも覚悟してこぞり起てば、府内、なお三、四万の兵力は優にあろう。

そのうえ、地勢のこともある。嶮ではないが、鎌倉四境はすべて山だ。また山に沿う丘やら谷やら狭道で攻めるに難い。――のみならず、南は海で、その海面に義貞はなんら攻め手を持っていなかった。

もし高時以下、一族北条が、

他日を期して

と、するならば、海上から船で遠く逃げおちることもできなくはない。

あれこれ、義貞も思いめぐらしていたことだろう。が今は何の逡巡もない。まず蔵人ノ七郎をして、浜寄りの腰越方面へ走らすと、以下、彼の一令一令のもとに、全軍は藤沢ノ宿を引払って、三方面へわかれだした。