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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

「……分りました。つまり兄上のお心として、神事を、わたくし事に利用したり、農民をあざむくような真似は、好ましくないと仰っしゃるのですな」

「そうだ。その通り……」

「では、加賀田の御忠言は、聞き流すとして、予定どおり、明日から雨乞いを行わせましょう。……とすれば、正季もいッそ気らくです。今夜とて、もう用もない身になれる」

「飲むがいい。……どうだ、すこし過ごさんか」

酌いでやって。

「加賀田の山荘へは、この頃も、皆、足しげく通っておるのか?」

「はい。御講義日には」

「そうか。兵学もよいが、まあ、一ト通りの心得だけで止めるがいいな。あれは、学問にとどまらず、活用が主だ。とどのつまりは身を殺すものでもある。われら山家武士には、まず生涯、実用の日などあるまい」

「なぜです?」

正季は、突ッかかった。

兄の容貌までが、このとき、ただの大百姓の一戸主みたいな凡くらに見えて。

「兵学無用との御意ですが、わが家は、武門でしょうが」

「だから程々に、心得おくのは悪くあるまい。したが、兵学ならでは、夜も日も明けぬかのごとく、血の気の多いのが、山荘などに寄り集ッて、天下国家を論じるなどは、どうかなあ。