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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
おおむね、知識の人は他の知識を、想像だけでまず多寡をくくる。
俊基がそんな軽薄ではないにしろ、彼とて、新しい宋学の造詣にかけては、堂上一般の若公卿なみに、いやそれの先駆者ぐらいな誇りもある者だった。
「そうか。……つまりは田舎儒者だの、その者は」
「いえ、どうして」
菊王は、主人の無残な結論へ一そうムキになって言った。
「なかなか、そのような、ぬるい人物とは、見受けませなんだ。いわゆる高士の風でもございましょうか」
「そちは、ひどく心酔だな」
「楠木家の御兄弟――正成、正季どのも師事され、奥河内の若い郷党輩からも、お師として、慕われておるのを見ても」
「山家に住んで、ちと小難しげな書物など飾りたてておれば、田舎武者には、さも、めずらしかろう。――世の名利を、あさましいなどといって、隠者めかしておるその類の似非者は、世間往々あるものだ」
と、俊基は手きびしい。
もっとも、彼のような実践第一とする志士的な眸には、口のみ賢げに容態ぶって、時乱の外にだけいる隠遁者などは、およそ虫の好かぬ卑怯者ときめていたことでもあろう。――そんな者よりは、俊基にすれば、自分の身代りに捕われて行ったと聞く船木頼春の方へ、この宵は、万斛の涙を覚えていたに違いない。