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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

櫨は黄ばみ、海は青く、丘の城門からは、遠い小佐渡の山なみまでよく見える。

守護の本間山城は、法体の入道で、一見温和な老人である。そのそばを五、六名の一族がとりかこみ、折ふし酒席だったが、そこへ柳斎を引いて、杯を与え、雑談などの末に、

「三郎」と、入道は、息子の一人、本間三郎を見ていった。

「日ごろはつい、武具の風入れなども怠っておる。ひとつ、おまえが奉行になって、物具蔵の内の物を、柳斎に調べさせておいてはどうだな」

「よろしゅうございましょう」

三郎は、昼酒にまッ赤になっていた。兄弟中での強者らしい風貌である。柳斎に大杯をさし向けて、

「佐渡衆はみな、豪酒だぞ。冬中ここにおって、体をこわすな」

などといった。

右馬介はその日から、館の下屋に冬中の住居を与えられた。そして、城内の土蔵にある武具を、本間三郎が奉行となって、家来を督しては、取り出すのである。それを折々に「拝見」というかたちで、破損や虫蝕いなどのしらべにかかった。

しかし、三郎は懶惰の性らしい。土蔵の開かない日は度々である。そんな日の柳斎は、身ままだった。世話になった金丸殿や浜の旅籠のおやじの許へも、ぶらりとよく顔を見せていた。