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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
出屋敷の倉番、帳方、舟手、軽子頭、その他、ここで諸役についている者は、おおむね無籍無禄の浪人だった。
かれら浪人の生態や、日頃の言なども、おもしろい。「おれの祖は、七、八代前までは、平家の小松殿の身内だったが、壇ノ浦このかた落ちぶれて」と、いうのもあるし。「おれどもの家は、木曾殿と共に都へ上って、一時はこの地方で、全盛をきわめたものだが」と、喞つもあり、蒙古襲来の役に、わしの大祖父は、どう働いたとか。承久ノ乱では、宮方へついたがため、家名を失い、以後はこの通りな半百姓だ――などと、いずれも、今の我が身には誇れもせず、ただ、過去ばかりを回顧しあっている手輩だった。
そして、明け暮れ、ばくちに耽ったり飲ンだりの、自堕落な中に甘ンじている者かと思えば、そうでもない。
「――時に会えば、俺だってこうしてはいない」とか。「世が悪いのだ、正しい世直しが行われれば、俺どもも立ち直る」などという放言の裏に、何か事あれかしの一ト旗を考えて、それには石川の散所ノ太夫などが、たのもしい木蔭と寄って、いつか徒党をなしたものである。
ここのみならず、こうした浪人輩は、公家という地主や、武家天下の地頭制の地割りなども一定された今では、かつての如き、土地の斬り取り強盗もできないところから、自然、世路に充満していて、叡山みたいな法城に