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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
再生の昨夜を、忘れまいぞと、卯木とも誓うたことでございました」
すると兼好は、大いにテレたようだった。
「やあ、迷惑迷惑。つい、つまらんことをいってしもうたが、おふたりの幸福は、他人の誰が仕向けてあげられるものでもない。やはりお辺たち二人でつかむしかないものだ。人の幸福に役だつことなど、何一つ出来る法師ではない。わしすらが、この乞食法師のざまだ。あとのことは、わしは知らんぜ。無責任な言には似るが、それが懸値のないとこじゃよ」
「どうぞ、あなた様も、お達者に」
「そうだな、お互いの達者を祈り合うことなら、確かに出来る。……蔭ながらわしも、祈っていよう。折に、都へ出たら、吉田山の庵を訪うてくれい」
「まだ、ほとぼりのさめぬうちは、めったに都の土も踏めませぬが、またいつかは」
「して、これから、おふたりは何処へ?」
「じつは相談のすえ、思いきッて、妻の卯木の実家方、楠木殿にすがって、昨夜仰せあった山田小美濃の座へ、座入りの儀を、お願いしてみる所存でございまする」
「なるほど、山田申楽の出向いた水分神社は、楠木殿の領下だったな。何もかもよい都合、それやお急ぎあるがよい」