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かがくじちょう
科学時潮
海野 十三
「新青年」1928(昭和3)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,486 字 · 5 页
先登に駈け出して行った死刑囚の一人が見えなくなっていた。彼は恰も此の好機逸すべからずと、死の谷の方へ脱兎の如くに早く駈け出して行ったのだった。多分始めから脱走する心算だったらしい、と一同の意見は一致した。――其の時、急に此の脱走したと思った死刑囚が、一行の前にヒョックリ現れたので、一同は驚いた。いやそれよりも一層驚かされたことは、この死刑囚の声音がすっかり違って仕舞ったことと其の話の中に盛られた内容なり考えなりが全く別人のようになっていた。其の時、やっと、気が付いたことは、これこそ例の怪人の一人が死刑囚を殺し、其の皮を剥ぎ、服装も一緒にこれを怪人が着しているのだという事が判った。
一行は怪人に其の不道徳を詰問したが、一向要領を得なかった。というのも怪人は人を殺すということなんか、別に罪悪だと考えられぬらしい面持であった。
一行と怪人との争闘が始まったが、結局一人の怪人に一行は全く征服されてしまう。怪人は人間より遥かに強かった。又学術的に勝れた頭脳を持っているようであった。其時、汽笛のような音響がした。死の谷に立ちのぼる白気は愈々勢いを増した。怪人は一同に別れを告げて去った。