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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

電車も、軌道の上に停車したまま、明るい車内には人ッ子一人残っていなかった。

高声器の近所で躁ぐもの、喚く者は、忽ち群衆の手で、のされてしまった。

トーキーをやっている映画館の或るものでは、即時映画を中止し、ラジオをトーキーの器械へ繋ぎ、応急放送を観客に送って、非常に感謝された。

歌舞伎劇場では、演劇をやめ、あの大きな舞台の上に、道具方が自作した貧弱な受信機を、支配人が平身低頭して借用したのを持ち出した。血の気の多い観客さえ、石のように黙りこくってその聴きづらい高声器の音に耳を澄したのだった。

「別府閣下の布告は終りました」杉内アナウンサーは、幾分上り気味だった。「次は塩原参謀より東京警報があります」

「東京警備一般警報第一号、発声者は東京警備参謀塩原大尉!」キビキビした参謀の声が聴えた。

帝都二百万の住民は、この一語も、聞き洩すまいと、呼吸を詰めた。

「信ずべき筋によれば」参謀の声は、余裕綽々たるものがあった。「比律賓第四飛行聯隊の主力は、オロンガボオ軍港を脱出し、中華民国浙江省西湖に集結せるものの如く、而して此後の行動は、数日後を期して、大阪若は東京方面を襲撃せんとするものと信ぜらる。