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みみとめ

耳と目

寺田 寅彦

「映画評論」1933(昭和8)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,065 字 · 9 页

青空文庫

しかしまだその方面で幾多のおもしろい新しい試みができるであろうと思われる。

普通の発声映画の場合には色彩は問題にならない。カメラの目は全色盲だからである。しかし音の音程や音色は実にヴァイタルな重要性をもっている。ソプラノがベースに聞こえたりうぐいすの声が鵞鳥のように聞こえるのでは打ちこわしである。前述のピストルの場合でも音の強度より音色のほうが大切である。近いピストルの音と遠いピストルの音との差は、単なる強度の差でなくて著しい音色の差である。それは雑音の中に含まれるいろいろな波長の音波が、それぞれ回折や分散の模様のちがうために起こる現象である。

トーキーの場合には、実際の音の音色は決してそのままに記録され複製されない。それは録音ならびに発音器械の不完全から来る欠点である。そのために、ほんとうの音よりも適当な擬音のほうがかえってほんとうらしく聞こえるというおもしろい現象も起こるのである。それでこの録音ならびに発音器械の不完全を利用して、近いピストルを遠く聞かせたり、人声を井戸の底から響くように聞かせたりすることも可能になるわけである。フラスコの中で歌う人造人間の歌を、さもさもそうらしく聞かせるような音響トリックもできていいわけである。