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みみとめ
耳と目
寺田 寅彦
「映画評論」1933(昭和8)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,065 字 · 9 页
しかし上記のような耳と目との空間知覚性の差別は、トーキー製作者の一応記憶していてもしかるべき事であろうと思われる。
耳と目の比較をする時に考えられる著しい差別は、耳が複雑な異種類の音響の複合物をその組成要素に分析する能力をもっているのに、目には視像を分析する能力がないという点にある。たとえば、ジンタ音楽と「いらっしゃいいらっしゃい」とが同時にオーヴァラップして聞こえていても、われわれはきれいに二つを別々に聞き分けることができるが、二つの少し込み合った映像の重合したものはただ混沌たる夢のようなものにしか見えない。たとえ二つのものは判別されても、二つのものの独自の属性は失われる。たとえば人間を通じて景色が見えるのでは、人間はもはや人間でなくて幽霊になってしまう。しかし音の重なる場合には二つのものはそれぞれ単独にある場合の独立性を失わない。
この事実はトーキー製作者の利用のしかたによっては、いろいろの可能性を生み出すであろう。現在でもすでにかなり利用されてはいるようである。簡単平凡な例を取れば、対話中に来訪者のベルを響かせて、次に現われて来る人間を紹介する類である。