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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页
心臓にきたはげしいショックで久美子はよろめいた。
「宇野さん、どうしたの」
「疲れたのよ。きょうは帰るわ」
アパートへ帰るなり、久美子は鏡の前へ行って眼のなかをしらべた。白眼のところに黄色い翳のようなものがついている。爪にも掌にもそれらしい徴候があった。
あわてて服を脱いで下着をしらべてみた。シュミーズの背筋にあたるあたりにあの不吉な黄色いシミが、爪黒黄蝶の鱗粉のようなものがかすかについていた。
いずれ、こんなことになるのだろう。それはわかっていた。遠い将来のことだろうと気をゆるしていたが、意外にも早くやってきたので、久美子は愕然とした。
「疲労だね」
肋骨の下を念入りに触診してから、内科の主任は事もなげにいった。
「君達のグループは働きすぎるよ」
「うちのものはみな癌で死んでいるんです。父は肝臓癌でした……あたし黄疸なんでしょう?」
「黄疸というほどのものでもない。この冬、軽い肺炎をやったね。その名残りだ。しばらく仕事を休んで、うまいものを食ってごろごろしていれば癒ってしまう」
医務室のへっぽこ医者にわかるわけはないのだ。癌のことならこちらのほうがよく知っている。