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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

と小使いに訊いて見た。ガス焜炉を動かして台を拭きながら、

「まだでしょう」

「しまっているんですけれど――」

「へえ……つい今しがたまでいたんだが……じゃかえったかな」

大してとり合う気勢もない。ミサ子はドアの前まで戻って行き、向い側の壁にもたれて風呂敷包みをときかけた。みどりが明日の朝来て見るように、書き置きをして行こうと思ったのだ。ミサ子が小さいはぎとり帳をひき出したとき、今まで薄暗かった堂本兄弟商会のドアの内部にパッと電燈がついた。おや、と目をあげた拍子に再び電燈は消えてしまった。何かの間違いだったのだろう。ちょっと様子を見た後ミサ子が再び手帳へ目を落そうとすると、今度は明らかに誰かの仕業らしく、パッ、パッ、と二三度電燈が明滅し、ひどい勢でドアの錠があく音がしたかと思うと、派手な袂で風を切って内から飛び出して来た若い女がある。ミサ子の方がぎょっとした。みどりであった。

みどりは立っているミサ子をすぐ認めた。が、まるで今ミサ子がそこにそうやっていることは約束してでもあったように、何とも云わず上気した顔のまんまずんずん洗面所の方へ歩き出した。みどりのとび出したドアの内では、男が無遠慮に痰をはいている音がする。