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はなのさくまえ
花の咲く前
小川 未明
「お話の木」1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,442 字 · 13 页
軽気球の上がっているであろう、遠い町の空はかすんでいました。こうして耳をすますと、大海原の波音のように、あるいは、かすかな子守唄のように、都会のうめきが、穏やかな真昼の空気を伝ってくるのです。幸吉は、原っぱへいったが、原っぱには、だれも遊んでいませんでした。丘の木立は、みんなうす紅く色づいていました。あちらの高い煙突からは、今日も黒い煙が上っていました。幸吉は、その煙を見て、明日も、明後日もまたこのように立ち上ることであろうと思ったのです。
まだ霜で枯れたままになっている、草株の上へ腰を下ろすと、黄色な小さいちょうが、風に吹かれて目の前を飛んでいきました。幸吉は、年ちゃんや、正ちゃんたちと、ボールを投げて遊んだ去年の秋の日のことを思い出していました。
このとき、突然後方から、飛びついて幸吉の頭を抱えたものがあります。
「あっ、ジャックだ!」
彼は、びっくりしたよりは、踊り上がったほど喜びました。そして、ジャックと原っぱで相撲を取りました。
「ジャック、どこにいたんだい。僕、晩に田舎へ帰るんだ、もうあえないのだぜ。」
知らずに熱い涙が、目の中からわいて出ました。