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よしとししゃせいちょう

芳年写生帖

野村 胡堂

「オール読物」1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,626 字 · 26 页

青空文庫

「――――」

それを聴いたおよつ、芳年の腕の中に、必死の眼を見開きました。

「聴いたか、およつ、――あれで、何も彼も解ったろう。改めて言うまでもないが、――俺は唯の絵描きだ。世の態、人の姿は描くが、訴人や企らみをする柄ではない、――俺の言葉も耳に掛けず、お前は飛んだ早まったことをしてくれたじゃないか」

「――――」

「どうせ勤めをしたお前だ。馴染も深間もあったところで、俺はそんな事でヤキモキするものか」

静かに説く芳年、隣の庭からは官兵が引揚げて、お浜のいそいそとした姿が、それを送って出た様子まで手に取るよう。

「お前さん」

「解ったか、およつ」

「堪忍しておくれ、私は――」

今死ぬおよつの眼には、初めて油のような涙が沁み出しました。

「解ったらそれでよい。傷は浅い。静かに手当をするが宜い」

「いえ、私は助からない。助かり度くもない、――お前さんに済まないけれど、私は、私は欽さんの後が追って行き度い」

およつは声もなく、芳年の膝の上に、身を顫わせて泣くのです。

「それも解っている、どうせこの俺とは浅い縁だ」

「堪忍して」

「可哀想に、――お前という女は」

「お前さん、――たった一つの願い、聴いてください」