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そうし

荘子

岡本 かの子

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页

青空文庫

「わたくしがある夜、おそるおそるあなたはもう、「道」の研究はおやめになってこの里の村夫子になってお仕舞いになりますのか、と尋ねましたら、夫がいくらか勇んで申しますには、その「道」がそろそろ見え初めて来たよという返答を申しますでは御座いませんか。わたくしがすこしあきれて、へえ、と思わず顔を見守りますと「道」はどこにでもありそうだ。「道」の無いところはないのだ。「道」は螻蟻にもある。稗にもある。瓦甓にもある。屎尿にもある。と仕舞いにはごろりと身を横たえて俺は斯して居ても「無為自然の道」を歩いて居るのだと申すようなわけで御座います」

土間から裏口に通じる扉の外で荘子の咳払いが聞えた。それは好晴の日の空気に響いた。田氏はほほ笑み乍ら立ち上った。

「夫が参りましたようですが初手からあまり夫の此頃をよく御存じのような御様子をなるべくなさいませんように、追々お話をほぐして頂き度う御座います。でないとまたとんだつむじを曲げまいものでも御座いませんので」

「はい承知いたしました」

遜が一かどの儀容を整えにかかるとき佝僂乍ら一種の品格が備わるのであった。荘子は扉を無器用に開けて土間へ入って来た。